妥協しない 焦らない 淋しさに負けない

「もうあたし、一生一人で生きていくかもしんない…」

真夜中前のあまりひと気のないカストロのバーの裏手にあるテラスで、秋の夜空の下、酒を片手にオカマのY子が女優めいた口調で言う。

Y子とは、お互い仕事が遅くなると、こうやって仕事帰りに「このまま真っ直ぐ家に帰って寝るだけってのもねぇ」と、一杯飲んで帰る仲なのだが、大抵Y子の恋愛話に終始する。


「一人で生きていくとかいって、そんな覚悟全然ないくせに! んで今回は何があったの」

話を聞くと、最近付き合い始めた年上の男から、連絡が来たり来なかったりと、宙ぶらりんのもやもや状態だという。

若い頃だったら、「そんなめんどくさい男なんか捨てて、次の男探せばいいじゃん!」と、強気で言えたけれど、この年になると次にいつ良い出会いがあるかも分からないから、早々簡単に捨てられないし、諦められないのは分かる。

この年になっても、たまに仲間みんなでオトコ達が集まるバーで「この中でどのオトコが見た目一番イケる?」などと、いい年して下らないことで、きゃっきゃとはしゃいだりするけど、実際の相手探しとなると、もはや見た目よりも、どれだけ「将来長く一緒にいられそうな人」かのほうが重要になってくる。

若い時に夢見た、白馬の王子様も大金持ちの石油王も、もう長いことオカマをやっていると、そんないいオトコが現れないことは、もう経験でわかっているのよね。

それよりも、学生時代の仲間も、会社の同僚も、まわりは皆もう結婚して、子供がいて、家庭を築いている中で、オカマの自分達もいつかは、病床で死ぬときに横に自分を看取ってくれるような人がほしいよね~、と仕事で疲れた身体に酔っ払った頭で、将来を憂う。

「やだ。あそこにいる若い白人の男、さっきからあたしの方ちらちら見てるわ」
「ねえ、あんた、さっき『もう、一生一人で生きていく』って言ってなかった?」
「え~やっぱり一人はいや~」
「大丈夫よ。あんたかわいいんだから。いつか絶対いい男が現れるよ」
「え~、かわいさは、あんたにはかなわないわ」

平日の夜中に40手前のおっさん(オカマ)2人、何やってんだか。






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