はらはらと涙あふれてくる 春一番耳元吹きぬける
土曜日の朝、ベランダの植木に水をやっていると、隣の家の庭に立っている桜の木から、白に近い薄紅色の花びら達がひらひらと風に舞っているのに気づいた。 このままぼーっと座って、美しく花が散っていくのを、酒でも片手にずっと見ていようかしらん・・・などと乙女な気持ちを抑えつつ、中年の重い体を引き摺ってジムへ向かった。 卒業できない恋もある。木々の色も変わるけれど。 (C)渡辺美里 窓際にあるマシーンに座り、周りで運動をしているいいオトコ達を横目で見ながら、適当に肩を鍛える(フリをする)。 ふと窓の外の通りに目をやると、向かいの歩道を、目の不自由な人用の白杖を持った女の子がひとりで歩いている。 はじめは気にもせずに、ジム内のオトコ達に目を戻した自分だが、少ししてまた窓の外を見ると、その女の子は白杖を片手に右へ向かったり、左へ向かったりと、どうやら方角を失ってしまったようだ。 もしかしたら、ここから数ブロック先にある地下鉄の駅を探しているのかもしれない。 ちょうどその時、若者の集団が彼女と同じ方向に向かって歩いていったけど、誰も声をかけようとも、手を差し出そうともしない。 それどころか、ぎゃーぎゃーしながら、そのまま通り過ぎていったわよ!? 「もう!今時の若い子はっっっ!!!」 急いでマシーンを離れ、階段を駆け下りてジムの外へ出ると、まだ道路の向かいの歩道で、その女の子は、右往左往している。 「道に迷ったの? チャーチ駅を探しているの?」 道路を渡り、彼女に駆け寄って声をかけた。 突然オカマの中年に声をかけられたからか、一瞬驚いた様子を見せたけど、静かに頷く彼女。 「大丈夫! 自分も今チャーチ駅の方面に向かうところだったから、一緒に行きましょ!」 自分の言葉にほっとしたからか、やっと笑顔を見せてくれた彼女。 駅に向かって彼女と一緒にゆっくり歩いていった時に気づいたが、この辺りは最近新しいマンションを建てる工事が多く、元々目の不自由な人たちが道しるべとしていたポイントが失われていたのかももしれない。 「この階段を降りれば地下鉄駅だよ。一緒に降りていこうか?」 「大丈夫。ここまで来れれば分かるから。ありがとう!」 彼女を送り届けたらなんだか安心して、もうジムなんてどうでもよくなって、いつものカフェで一...