懐かしさの一歩手前で こみ上げる苦い思い出に

日曜の朝。

どうせ汗をかくから、と顔も洗わずシャワーも浴びずに家を出て、ジムへ向かって歩いていると、反対側から見覚えのある顔の男が向かって歩いてくる。

もう10年近く前に付き合っていたアメリカ人の男である。

「偶然! 久しぶり。 元気だった?」

「クリスマス休みは旅行でも行くの?」

「特に予定ないから、ここにいると思う」

「よい年末を!」

「よい年末を!」

などと、ほんの一瞬の他愛もない会話を交わし、軽くハグした後、お互い別の方向へ向かってまた、歩き出す。

東京ラブストーリーのリカじゃないが、背後に小さくなっていく彼の姿をちらっと振り返ってみる。

ある程度の期間を一緒に過ごした相手ではあるが、今となっては何の未練もない。

しかし、久しぶりに見るその懐かしい姿に、当時の記憶がよみがったのである。

ある程度の期間を一緒に過ごしたその男との別れは、その当時は本当に精神的につらいものがあって、すぐにフィリピン人の新しい男(若いかわいい子!)を見つけた彼と、しばらく独り身のままの自分との間の溝は深く、もう彼の顔など二度と見たくない!等と思ったこともあったかもしれない。

しかし、別れから10年も経つと、そんな恨みつらみよりも、

"しばらく見ないうちに、大分痩せたけど、大きな病気でもしたのかしらん"

"その後、フィリピン人の彼とは別れたと風の噂に聞いたけど、クリスマスは一人でさみしくしてないかしらん"

と、相手の心配をしている自分である。

「久々に、昔付き合ってた、Jとディナーしてきたんだけどさ」

と同業のM子ちゃんも、最近、昔の男とただの友達として食事をしてきたという。

「当時なんで、この変な男と付き合おうと思ったのかも、思い出せないんだけど!」

「若いときの男選びって、そういう過ちを犯すもんなのよぉ!」

と言って二人で爆笑したのだった。

ただ、自分もM子ちゃんも、過去の男たちとどんな別れ方をしようが、ただ、彼らがどこかで幸せに過ごしてくれていればいい、と願うのである。













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