誰かと争うのではなく 誰かを憎むのではなく

アメリカ大統領選挙当日の朝。

いつもと変わらず、ここ数年の景気向上で人口が急増したこの街の朝の通勤電車は、東京の山手線のように満員で、ぎゅうぎゅう押されながら乗り込んだ。

いつもと違うのは、みな胸に服の上から"I Voted"のシールを貼り付けていること。

みな投票したことを誇りにしシールも貼るし、フェイスブックでは朝から皆の" I voted"のステータス表示が賑わっている。


昼の3時(東海岸時間で夕方6時)を過ぎると、各テレビ局や新聞社のウェブサイトが一斉に開票速報を流しだした。

"赤の"共和党が強い東部、中西部の州の開票からはじまるので(選挙の仕組みはこちら)、はじめのうちは共和党のトランプが優勢になるのは誰もが予期していた。なので、ニュースで共和党優勢と報道されても、まだ"青の”民主党が強い西部も接戦州もあるしと誰も驚かず騒がず、静かにいつもどおり仕事をこなしていた。

帰宅時間になりコンピュータを閉じる前にCNNのサイトで確認すると、接戦州と言われるフロリダとオハイオが"青の"民主党ヒラリー優位と出ていて、やっぱり予想通り今回はヒラリーで決まりだわね、等と安心して会社を出る。

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首都のDC、ニューヨーク、シカゴのあるイリノイ、シアトルのワシントン、ハワイ、そして自分の住むカリフォルニアと都市部は民主党が強く、自分の周りもヒラリー支持者しか見あたらない。

ヒラリーにも問題はあるかもしれないが、政治・軍事のバックグラウンドがなく、ましてや女性蔑視やマイノリティ侮蔑の発言を繰り返すトランプが、この国のましてや世界のリーダーになり得るはずがない、というのが皆の共通の意見だった。

グリーンカードがあっても市民権のない自分は投票権がないのだが、トランプだけにはマイノリティー(オカマでかつ非米国人)である自分の輝ける(?)40代を任せられないわ!とわずかながらの献金でヒラリーを応援していた。

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仕事の帰り道、今夜は次の4年(あるいは8年)をがんばってもらうヒラリーちゃんにお祝いしなきゃね、とスーパーマーケットによってスパークリングワインでも買おうとおもったら、ほとんど売り切れで残りあとわずか。皆考えることは一緒だわね~、などと納得して家路についた。

しかし家についてテレビをつけると、CNNのキャスターが青い顔をして何か叫んでいる。

ちょ、ちょっと何があったのよ!?とテレビ画面に見入ると、フロリダ、オハイオをはじめとする接戦州がすべてトランプ優位なんて出てるじゃないのよ!!!

一体何が起こってるのか、急いでフェイスブックやLINEで友達と確認すると、皆「何が起こってるのか理解できない」「もう見ていられない」「気持ち悪くなってきた」「カナダに引っ越す」「でもカナダの移民局のサイトにつながらない!」などと動揺と混乱で大変なことになっている。

仕事着のまま着替えもせずに呆然とするあたしに、CNNのキャスターは「まだ、わかりません!ヒラリー候補の逆転の可能性は十分にあります!」などと慰めてくれたけれど。

ほ、ほかのメディアはどう報じているの・・・とニューヨークタイムズのサイトを見てみると、「トランプ候補の勝率95%」とグラフで示していて、もうこの時ばかりは、いつも女優ぶって演じる自分も本気で床に崩れこんだわ。

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アメリカ大統領選挙の翌朝。

睡眠が浅かったのか身体がだるく、なかなかベッドから抜け出せずにいた。昨日のトランプショックが、非米国人である自分にも思っていた以上に衝撃だったのか。

日本に住んでいた頃は、アメリカ大統領選など日本に影響はあるとは言え、なんだかんだいっても他人事だったのにね。

皆、このショックを共有したいのか、朝っぱらから女友達やオカマ友達からメッセージが届いた。

「とんでもない行動や発言をするトランプも脅威だけど、それ以上にそのトランプを平気な顔して支持するアメリカ人がこれだけいるっていうのがすごく恐いわ。」
「さっきニュースで見たけど、オバマが築いてくれたLGBTの権利も、トランプなら宗教の名のもとに取り上げかねないわよ!」
「株価暴落で、うちらの401Kもやばくない?」
「うちの会社、労働ビザで日本人や中国人を採用してるけど、ビザが凍結したら人材不足になって仕事まわらなくなりそう・・・」
「トランプってディベートで何度も日本の軍事費負担要求を叫んでたから、日本にもすぐトランプショック及ぶわね」
「カリフォルニアはもうアメリカから独立すればいいのよ!十分経済力・自給力あるし!経済規模フランス抜いて世界6位だってよ」
「もうブラジル引っ越す!それか、独立国作るわ!(C)野沢の直ちゃん」

もう、みんなトランプショックで朝から疲労困憊で、何がなんだか訳わかんなくなっている。

いつもは満員の通勤電車も、今日は座れる程に空いていて、会社についても人はまばらで、数えるほどしか来ていない。

トランプショックで誰も家からでる気力がないのか。

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夜、これを書いている今も、外のカストロの通りでは人々が集まり、「自分達の権利は自分達で守るしかない」と誰かが拡声器を使って叫んでいるのが聞こえてくる。

"誰かと争うのではなく 自分をみつけたいだけ
誰かを憎むのではなく 想いを伝えたいだけ

Seven Days War 戦うよ
僕達の場所 誰にも譲れない

うつむかず生きるために"

この曲、好きで若い頃よくカラオケで歌ったよなぁ。(下手っぴでジャイアンとか言われてたけど)

まさかこのご時勢に、この歳になって、自分達の今ある権利を国によって脅かされることになるとは。

次の4年間は、自分達を守るための戦いだよ!
(大げさ???)

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