ピンクのモーツァルト
「今日で仕事、最後なの。今まで色々ありがとう。」 いつも会社で自分の仕事を手伝ってくれていたスタッフの中国人の女の子が、自分の席にやってきて言った。 彼女は確か去年入社したばかり。話を聞くと、米国での労働ビザが通らなかったらしい。 ここ十数年、アメリカでの労働ビザの志願者が多いから、第一段階での移民局による抽選にもれると書類の審査すらしてもらえないのだ。 彼女も第一段階での抽選漏れだったらしい。 細かいところまで仕事をきちんとやってくれる真面目な彼女がいなくなるのは、自分も痛手だけれど、それよりも、海外からやってきて真面目に仕事もしていたのに、ビザの問題のために、仕事をやめて国に帰らなければならない彼女の気持ちを考えると、本当に悲しい。 自分の時は、運よく労働ビザの抽選・審査も通り、直属の日本人上司のサポートもあって、グリーンカードの取得までこぎつけたけれど、きっと彼女のように、労働ビザや永住権の問題で、急遽国に帰らなきゃいけなかったり、学生に戻って学生ビザでなんとか米国に滞在したりと、苦労とストレスに対峙しなければいけない人がいっぱいいるのだろう。 --------------------------------------------------- 1ヶ月くらい前だったか、久々に、いつもつるんでいる同年代日本人オカマ仲間の4人と、日曜の昼間からオカマバーのテラスで酒片手に、まったりしていた。 「あとはY子がグリーンカード取れれば、4人とも無事ゴールインだね」 同性の結婚が合法となって、十数年一緒だったアメリカ人の彼と結婚してグリーンカードをいち早く取得した、M男が言う。 「Y子ちゃん、このために真面目にこつこつ週末も休まず仕事してきたんだもん。もうすぐ取れるよ!」 同じくこつこつ真面目に日系の会社で仕事をして、その職場からサポートしてもらって数年前にグリーンカードを取得した、K枝がY子をはげます。 「まあ、そうなんだけどさあ。夏休みまでにカードが届けば、ちょうどよく日本帰れるのよね~」 Y子はY子で、別に悪いこともしてないし(売春まがいみたいなことはしてたけど!?嘘嘘)、気長に待っていればそのうち取れるとは思っていながらも、ビザの関係でもう十年以上、日本へ里帰りすることもできないでいるから、手元にカードが届くまでは...