ずっと心に描く未来予想図は

東京でサラリーマンをしていた頃、毎週のようにつるんでいた友人がいた。

お互い遅くまで残業した後、スーツのまま二人でスーパー銭湯に行ったり、夜食にラーメンを食いに行ったり。

週末には、彼の運転する車で当時流行っていた曲やラジオを聴きながら、夜の東京をドライブしたり、少し遠出して、日光やら箱根やらも行ったりした。

自分がアメリカに行くのを決め、東京での仕事を辞めた日。出勤最終日に会社のビルを出ると、外で背の高いその彼が待っていた(まるで大昔のトレンディドラマのようだわよ・・・)。

「今日から自由だね! 何したい?」

と問う彼に、

「なんか海が見たい気分かも」

などと、今時若い娘も言わないような、ブスな返事をする自分を静かに笑って、千葉の海まで連れてってくれたのだった。

アメリカへ出発する直前には、彼は涙を流して惜しんでくれて、自分は自分で彼との思い出にと、当時二人で車でよく聴いた曲を入れたMD(ミニディスク....若い子は知らんだろな)を彼に渡したり(重っ...)。

こんな風に思い出してみるとーだいぶ脳内で想い出補正してるかもしれぬがー、まるで恋人同士のようである。だが、彼と自分はあくまで仲の良い"ただの"友達だったのだ。

それにしても、スーツ姿の似合う、背の高いいい男だったよなぁ。

さて、自分がアメリカに渡った直後は、アメリカでの生活経験のある彼には色々アドバイスを仰いだり、一度彼が仕事の出張でサンフランシスコに滞在した時には一緒に酒くらいは飲んだが、時間が経つにつれて、お互いだんだん連絡も取らなくなっていった。

そしてその後、彼は女性と結婚し、今ではお子さんもいると、風の便りに聞いた。

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今の会社の日本人の上司は、時々週末に会社の日本人メンバーとその家族ををサンフランシスコ郊外の彼の家に呼び、手巻き寿司やら焼肉やら天ぷらやら、自宅でとれた新鮮野菜やら、色々と美味しいものを食べさせてくれる。

子供を何人も育てながら働いているママさん同僚も何人かいるので、その上司の家の会では、お子さんたちのはしゃぐ声で賑やかになる。

時々こうやって会うたびに、そのお子さんたちはどんどん成長していくのに驚くばかりだ。

「この前あった時は、まだ赤ちゃんだったのに、今じゃ旦那さんに似て、本当よー喋るわ!」

「数年前は"一緒に遊んで~"って追いかけてきてくれたけど、もう年頃の女の子だもんね。おっさん(おばさん?)相手じゃつまんないよね。」

などと、ママさん同僚と笑いながら話す。

他人の子供ながら、こうやって幼かった子たちが成長していくのを、目を細めてみつめている自分である。

ママさん同僚とは仕事の愚痴を毎日のように言い合うが、子供たちの学費の為、子供たちの将来の為とならば、彼女たちも嫌なストレスな仕事を続けられるのかもしれない。

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ふと、先の彼のことを思い出す。

女性との結婚を選び、今では毎日東京でバリバリ働きながら、あの静かな優しい笑顔で、我が子の成長を見守っているのだろうか。

一方で、自分は子供もおらず、仕事ばかりで日々の意義さえも見出せず、ゲイの将来・老後は心身ともに不安だらけだ・・・。

彼がよく、夜のドライブを終えて自分を車から降ろした後に、冗談でDreams Come Trueの曲の歌詞の真似をして、ブレーキランプを5回点滅させたことを思い出して、思わず懐かしさに涙が出そうになった。

"中年オカマは、こうやって過去の思い出にすがって、生きていくのよ~"

と、空っぽになった酒のグラス片手に、おセンチになる秋の午後である。

何年も前に日本に帰った時に、泊まったホテルからの東京の写真を
ひっぱりだして、眺めてみる。
あの頃、首都高をドライブするたびに見える、
夜の東京タワーが好きだった。




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