どこかで掛け違えてきて 気が付けば一つ余ったボタン
いつものようにバタバタと仕事をしていると、家の外で清掃車の音が聞こえ、ふと時計をみると既に朝の4時である。
まだ暗い空には、遠くに金星が見える。
明日もあるから、いい加減そろそろ寝ないと老体は持たない、と思いつつも、
“寝たら、また数時間後には朝になって仕事なのよね”
と思うと、すぐに寝床には向かえず、
“とりあえず30分だけ”
と、台所に向かい、安物の焼酎の水割りを作る自分である。
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日中はアメリカ国内のクライアントとやり取りをし、夕方になると日本が朝になるから東京オフィスと電話会議、そのあとシンガポールのクライアントに何通かメールをしていたら、ロンドンから問い合わせが入り、その対応をしていたら、気がつけば夜中の3時、4時である。
こんな事を友人に言ったならば、
「ふーん。あんたは、なんだか世界を股にかけて、国際派の仕事してんのねぇ。」
「へー。あんたの仕事、一昔前のトレンディドラマの主役のオンナの相手のオトコ(オカマ?)みたいな設定か」
などといった返事が返ってくるかもしれぬ(こねえか)。
実際は本当に地味な仕事内容で、仕事量ばかりが多くて、対クライアントの仕事であるから、無茶振りな依頼が来る事もあり、ストレスでどんどん人が辞めていく、側からみてもブラックな職場である。
この数ヶ月は、本当にしんどい日々で、朝の9時前にコンピュータの前に座り、気がつけば夜中(朝か)の5時になることもしばしば。
クライアントとの時差のせいもあるが、それよりもこの仕事量が半端ないので、日本人の同僚ともいつも、
「もう無理ー」
「まじ辞めたいー」
「もうHPもMPもゼロー」
などと言った愚痴が長年口癖になっている。
元々の大学での専攻も、前職の仕事内容も、今の仕事と一切関係なく、自分が興味のある分野でも業界でもないのだが、この国で働くためにビザ・グリーンカードのサポートをしてくれるところを、と探していたら今の会社が拾ってくれたのであった。
同業女子のM子が言うように、嫌なら次を探せばよいのだろうが、そもそも次に自分が何をしたいのかもわからず、40過ぎの中年オカマの自分が運良くどこかに拾ってもらえても新しい環境でやっていけるかしらん、などとウダウダ言ってるうちに時だけが過ぎていくのであった。
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まだ朝の来ぬ、暗い静かな街並みをみながら、窓際に座り、焼酎の水割りで一時を過ごす。
あまりにも静かなのでなんだか淋しくなり、とは言えこの街に住む友人は皆寝ているだろうからと、日本の友達や家族にLINEでメッセージを送ってみるとすぐに返事が来た。
こんな時は時差がありがたいわ。
横浜に住む中学時代の同級生の女子たちと、当時の思い出話をしたり、
東京や軽井沢に住む友人とは、youtube動画と共に昭和のアイドル談義をしたりする。
母からは、きれいな地元の田舎の秋空の写真とともに、
「早く寝なはれ!」
とメッセージが来たわよね。
それでも、一瞬仕事を忘れて、古い友人や家族とのたわいもないやり取りをしていたら、少し元気になった中年オカマである。
よし、明日(今日か)もがんばらねば。
寝るわ!
夜明けの来ない夜はないさ…
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