野生の風吹く日に 今のすべてを捨てて
その若手の俳優さんのことは、あまり知らなかったのである。
知っていたのは、以前彼が、ミュージカル「キンキーブーツ」の日本版に女装して出演した、と言うことくらいだ。
その彼が亡くなったと言うニュースが報道されてから、日本に住む中学時代の同級生やらオカマ友達やら友人たちから次々にグループメッセージが送られて来て、彼の詳細を知ることとなったのだった。
「あんなにいい男で、演技も踊りも歌もできる才能があって、なんで死ななきゃいけなかったの。」
「周りからも、良い人って人気があって愛されてたのに、なんで。」
「あたしがそばにいたら、守ってあげたのに。」
と皆、彼の死をまだ信じられないでいる。
“死を選ぶくらいなら、全てを捨てて外国にでもどこへでもいいから、まずはそこから逃げ出して!”
と他人である自分は簡単に言うが、本人はそれすらも考えられないほど、疲れ果ててしまっていたのかもしれない。
自分も、仕事やら何やらでストレスでやられると、夜の眠りも浅くなり、もう全て捨ててしまいたい、と思うこともある。
日本で育児の傍ら働いている中学の同級生も、この街に住む友人の中にも、ー特にこの時世だからかー、同じような気持ちになったことがある言っていた。
それでも皆なんとか今までやってこれたが、彼のようにふとしたきっかけで死の選択に落ち込んでしまうのは、誰にでもあることなのかもしれない。
日本で高校の先生として働いている友人ともそんな話していたら、最近生徒の一人が自死を選んで亡くなったという。
「だから、うちらも辛い時は、お互いなんでも話して相談しようね。」
「これだけ生きてると色々辛いことがこれからまだあるだろうけど、その時はそれが永遠に続くわけじゃないって信じて行かなきゃね」
「このご時世で、いろいろ考えると心が病むけれど、楽しかった下らない日々を思い出したりして、口角上げて行こうね。」
などなどと、お互いちょっとくたびれて来ている友人達と、励ましあったのだった。
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サンフランシスコに住む日本人のシェフの友人が、10年ぶりに日本に帰っている。
久々に会ったお姉さんと、広島の尾道を旅行している美しい写真をインスタに載せているのをみて、自分も次に日本に帰る時は、尾道行きたいなぁ、と夢見ている。
今年亡くなった、大林宣彦監督の映画のロケ巡りしながら尾道の地元の美味しいもの食べ歩きしたいわ。
ふと、先の若手俳優の彼が出ていた、青森まで新幹線が開通した当時のJRのキャンペーンCMを観ていたら、尾道もいいけど、母の育った青森でもう一度ねぶたも見たいなあとも思う。
色々辛いこともあるけれど、生きてさえいれば、いつか尾道から臨む瀬戸内の風景だって、夏の青森のねぶた祭りだって、行きたいと思えばどこにでも行けるのだ。
野生の風みたいに
強い心が欲しい
と今井美樹が大昔に歌っていたのも、大林監督の映画の主題歌だったわよね。
ご冥福をお祈りします。
ご冥福をお祈りします。
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