木漏れ日がライスシャワーのように (1)

20年前、日本で学生をしていた頃。

高校時代の仲間に誘われて、大学での授業の無い週末は横浜の桜木町のとあるホテルでアルバイトをしていた。

真っ白なジャケットに黒のだぶついたパンツという、なんだかあか抜けないホテルの制服を着て、イベント会場のウェイターとして、一日中、立ちっぱなしで汗ぐっしょりで働いていたのも、今となっては懐かしい。

現天皇陛下と皇后がチャリティイベントに参加された時も、ワインサーブ担当として会場を立ち回っていたのであるが、その日の事は「雅子様、美しい・・・!(それにしても皇太子と比べて背がお高い・・・失礼)」くらいにしか覚えていないあたしよ・・・。

そんな特殊なイベント要員として駆り出されるのは稀で、殆どの週末は結婚披露宴でのウェイターとして、食事や飲み物、時には照明担当として、裏方で多くの若きカップルの門出を見守ってきたのである。

"わー! なんて素敵な結婚式・・・!"

などと新郎新婦が両親に感謝のメッセージを読む姿に、照明を当てながら暗がりで密かに涙する度に、

その当時は、もう自分がゲイだと認識していたから、

”まあ、自分はゲイだから、こういう機会も一生ないのよね・・・、ふん。"

などと卑屈になっていたし、度々垣間見てきた結婚披露宴の舞台裏のストレスも無縁なものだと思っていたのである。

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「結婚式、どうしよっか!」

とある週末の朝、昨夜残り物を卵で炒ったものをつっついていたら、突然N君が言い出した。

「え?」

N君から結婚を申し込まれてから1年が経ち、自分は結婚式などせず、多くのゲイカップルがするように、いずれサンフランシスコの市庁舎で紙ぺらに署名するだけだと思っていたものだから、思わず言葉に詰まる。

「サンフランシスコでもいいけど、ハワイや東京で結婚披露宴するのもいいよねぇ。

仕事の繁忙期が過ぎた時期を考えたら来年の1月かな? 

でも1月だとハワイも東京も天気悪いし・・・。

でも、サンフランシスコは高いよねぇ。」

などと、でかい図体に似合わない乙女な発言を次々繰り広げる暴走気味のN君。

「ちょちょちょ、ちょっと待って!!! 

うちら結婚披露宴なんて、やるの!? 

市庁舎でサインだけでいいんじゃないの!?」

と暴走N君にブレーキをかける自分。

「え、でも、もううちの両親も楽しみにしてるし。高校時代の友達もみんな披露宴やってきたし。。。」

と、でかい図体に似合わない、乙女な結婚式の夢を描いていたN君、、、、なの・・・!?

そもそも、まだ日本に住む両親にもはっきり自分がゲイだとか、アメリカ人と結婚するだとか、白黒つけていない自分である。

ましてや、わざわざ多くの人々に集まってもらって、自分たちの結婚披露宴を行うなどと、自分の中には一切考えがなかったわよ!

今まで調べたことも無かった、結婚披露宴の準備あれこれや費用をネットで調べてみると、途方もなく気が遠くなってきた。

そもそも人前で着飾って、自分たちのために人に集まってもらって披露宴を開くなど、考えただけでもストレスである。

色々考えていたら、胃が痛くなってきて、それでなくても高い血圧がますます上がってきたようだ。

このままじゃ、また10円ハゲが発症しそうだわよ・・・

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盛大に結婚式を行いたいN君とその家族、

一方で、結婚式など行わずに、ふたりで市庁舎で密やかに入籍だけで済ませたい自分に、

すでに大きな溝ができていたのであった。





続く。














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