死に至る病、そして (3)
死に至る病とは、絶望である。 と、言ったのは哲学者キルケゴールだった。 -------------- 外出禁止令が出てから、3週間目に突入したものの、未だにこの生活に慣れずにいる。 しかも、外出するのが、食糧の買い出しぐらいなものだから、運動不足も甚だしい。 携帯の万歩計機能を久々にみてみたら、昨日歩いた歩数が、 「89歩」 とか出てきて、思わず故障したかと思ったわよね。 しかも、家から仕事をしているものだから、気が付けば冷蔵庫やらスナックの入っている棚を物色している自分である。 このままじゃ、デブの加速に歯止めがきかなくなる! と、焦りはじめ、 インスタで見つけたニューヨークのトレーナー がやっている、自宅でできるトレーニングビデオをみながら、毎朝、仕事机に向かう前にエクササイズをはじめたものの、今のところ全く効果はなさそうである。 ------------- 食料の買い出しにスーパーマーケットに向かうと、どこも長蛇の列である(みんな2メートルごと間をあけて並んでいるから、ますます長く見える訳)。 買い出しの帰りに、飲み屋が多くあつまる、ゲイの街であるカストロを車で通ると、どの飲み屋もドアや窓に木製の板が打ち付けられ、誰も入れないようになっていて、 ゾンビ映画のように静まり返っている。 つい数週間前までは、酒を交わしながら、K枝やE子と仕事帰りや週末に、飲んだり語ったりしていたのが、遠い昔のようだ。 「この状態、いつになったら、終わるのかね」 と、バーチャル飲み会をしながら、仲間に問うても、 みな、しゅんと答えられずにいる。 休暇の予定も立てられないから、せめて旅行気分でも味わおうと、仕事の合間や、寝る前に、学生時代からの愛読書である沢木耕太郎氏の「深夜特急」や、定期購読している「トラベラー」誌をめくって現実逃避したりしている。 死に至る病とは、絶望である。 というが、せめてこの状況を忘れようと、今はあまり後先の心配をしないように、と現実逃避するしかないのである。 ジントニックで喉を殺菌しつつ(?)、「深夜特急」で旅行気分。 スーパーのお兄さんによると、ここ数週間で酒の売上が急増したそう。